こんにちは,masART STUDIOのカワグチです。建造物や樹木を下から見上げるように撮影すると、上に行くにしたがって小さく窄んでしまします。しかし,建築関連の書籍や,不動産関連のカタログでは,まっすぐに撮影された建物をよく目にします。このように,縦のラインが垂直に写るようにゆがみを修正することを,アオリ撮影もしくはアオリ修正と言われています。この記事では,Adobe Lightroomで簡単にできる建築写真のゆがみの補正についてご紹介します。
本稿は,masART Blog(2019年3月1日)に投稿された記事を再編集したものです。
アオリ撮影とは

そもそも,アオリ撮影とは光軸をずらすことでゆがみを補正したり,光軸を傾けることで被写体全面をシャープに撮影する特殊な撮影技法です。一眼レフカメラでは,あおり撮影に対応したベローズユニット(蛇腹状の機器)や,シフトレンズを用いて撮影します。
光軸をずらして撮影する技法

- ライズ(Rise):被写体に対してレンズ面を上に移動して撮影。主に建物写真のゆがみを補正します。コンピュータ上の処理でほぼ同様のことが可能。
- フォール(Fall):被写体に対してレンズ面を下に移動して撮影。主にブツ撮りのゆがみを補正します。コンピュータ上の処理でほぼ同様のことが可能。
- シフト(Shift):被写体に対してレンズ面を左右水平方向に移動して撮影。主に反射する被写体にカメラが写り込みを防止します。
光軸を傾けて撮影する技法

- チルト(Tilt):レンズ面を上向きもしくは下向きに傾けて撮影。ピントの合う範囲を狭めて特定の部分を強調したり,逆に画面全体にピントを合わせることができます。
- スイング(Swing) :レンズ面を左向きもしくは右向きに傾けて撮影。斜め方向にピントの調整を行うことができます。
アオリ撮影を画像処理で再現できること・できないこと
残念ながら,コンピュータ上の画像処理によって,すべてのアオリ撮影を再現できるわけではありません。
画像処理で再現できること
ライズ撮影やフォール撮影とほぼ同様な補正,つまり被写体のゆがみを補正することができます。また,アオリ撮影とは関係ありませんが,水平のとれていない画像や,画面の傾きも補正できます。
画像処理で再現できないこと
撮影後の画像データに,レンズの特性を生かした表現を付け加えることは至難の業です。
たとえば,斜めに奥行きのある被写体があったとします。手前に焦点が合っている撮影後のデータに対して,画像処理で被写体の奥まで焦点を合わすことは不可能です。
また,反射する被写体に写り込んだ,カメラや撮影スタッフを取り除くのも,非常に手間がかかります。ただ,Adobe社が開催しているイベントでは,新たな人工知能を使用した画像処理技術が次々と発表されています。今後に期待しましょう。
建物のゆがみを取り除こう

今回は作例として,集合住宅の写真のゆがみを取り除いていきます。ちなみにこの集合住宅は,かつて洗足池駅周辺に建っていた東京都の職員住宅です。現在は取り壊されて存在しないため,サンプルとして使用します(入居者が退去した後に撮影しました)。
Lightroomを起動て,編集したい画像を選択します。編集したい画像を選択したら,右側の列にある「編集」アイコン をクリックするか,ショートカットキー「E」を押下して,編集画面に移動します。

編集画面が表示したら「レンズ」セクションを展開して,「色収差を除去」と「レンズ補正を使用」にチェックを入れます。

「ジオメトリ」セクションを展開して,「Upright」プルダウンメニューから「自動」を選択します。自動でも良い感じに補正できましたね。今回の作例では,自動でも上手く補正できましたが,手動で補正することもできます。

手動で補正する場合は,Upright」プルダウンメニューから「ガイド付き」を選びます。

写真に直接ガイドを引くことができるので,垂直にしたい部分に沿ってドラッグします。

最大4つのガイドを追加して,ゆがみを調整することができます。ここでは,柱にそって2本のガイドを引きました。ゆがみの補正をしたところ,下部に欠けが生じましたのでトリミングを行います。

トリミングを行うには,右側の列にある「切り抜きと回転」アイコンをクリックするか,ショートカットキー「C」を押して,「切り抜きと回転」画面に移動します。

トリミング後に,ホワイトバランスや明瞭度,シャープなどを再調整して完成です。

完成


この記事では,Lightroomで行う簡単なアオリ補正をご紹介しました。このようにLightroomを使用することで,簡単にアオリ補正を行うことができます。なお,サンプル写真を見比べていただければお分かりかもしれませんが,画像処理の過程でかなりの部分が切り取られます(画面左側にあった,踏み切りの遮断桿が完全に切り取られています)。撮影時はトリミングすることを前提に,余裕をもって被写体を収めることをおすすめいたします。
最後までご覧いただきましてありがとうございました。